【小学生でもわかる南海トラフ地震の仕組み】2035年が危険視される理由と防災対策

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2024年8月8日午後4時過ぎ。宮崎県東部沖合の日向灘を震源とするM7.1(最大深度:6弱)の地震が発生。

今回起きた地震というのは、南海トラフ沿いで起きたプレート型地震ということで、近い将来発生すると言われている「南海トラフ地震」との関係が懸念されることから、気象庁より初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。

詳細:南海トラフ臨時情報-気象庁

※記事を書くにあたって少しだけ自己紹介をしておくと、私は元々は機械学習を中心とした情報工学を専攻していた人間なのですが、最近は仕事で地震に関する論文や文献を読む機会が多く、なぜか地震に詳しくなってしまったゲーム好きの一般人です。断っておくと専門家ではないので、その点は加味したうえで、記事を読んでいただければ幸いです。

南海トラフ地震とは?

地震には幾つか種類がありますが、南海トラフ地震は簡単にいうと「南海トラフ沿いで発生する周期性のあるプレート型地震」です。周期性があるということで、「昔から何度も何度も繰り返し発生している地震」になります。

どれくらい昔から発生しているのか?…という話ですが、記録されている最も古い南海トラフ地震は西暦684年に発生した「白鳳地震」とされています。この時の地震は土佐(現在の高知県)に大きな被害をもたらしたそうで、津波が発生し、田畑の水没に加え、海難事故が多発したとされています。※白鳳地震に関しては日本書紀に記録されており、白鳳地震が起こる10年前あたりから余震が増えていたことも同時に記録されています。

ちなみにこれまで記録が残っている南海トラフ地震は計9回。

  • 684年:白鳳地震
  • 887年:仁和地震
  • 1096年:永長東海地震 / 1099年:康和南海地震
  • 1361年:正平東海地震 / 1361年:正平南海地震
  • 1498年:明応地震
  • 1605年:慶長地震
  • 1707年:宝永地震
  • 1854年:安政東海地震 / 1854年:安政南海地震
  • 1944年:昭和東南海地震 / 1946年:昭和南海地震

参考:南海トラフで過去に発生した大規模地震-内閣府

次の発生までに短いもので約90年、長いもので約250年の期間が空いて発生しています。だいたいの目安として「100年~200年周期」で発生すると言われています。

怖い点としては、1回の地震では終わらず、南海トラフの西側と東側で2回に渡って巨大地震が発生しているケースが多い点でしょうか。

具体的な被害については内閣府が公開している資料なども参照いただければと思いますが、幾つかピックアップすると、1498年に起きた「明応地震」では、津波の影響により伊勢志摩にて10,000人が溺死。

1707年に起きた「宝永地震」は日本で記録されている地震の中では最大級と言われ、被害が最も大きかった土佐では津波の影響により1万軒を超える家屋が流され、1,844人が死亡、全国で累計5,000人を超える死者が出た事に加え、その約1か月半後に富士山の大噴火(宝永大噴火)が発生しています。

1854年に起きた「安政東海地震/安政南海地震」でも、津波などの影響により3万軒を超える家屋が崩壊、数千人が死亡。この頃は全国各地で地震が相次いでおり(安政の大地震と呼ばれている)、1855年には巨大地震「安政江戸地震」が発生し、江戸では死者数1万人前後という恐ろしい被害が生じました。

直近では、戦前戦後に、2回に渡って南海トラフ地震が発生しています。戦時中の1944年に発生した「昭和東南海地震」では、全壊した家屋は約26,000軒、死者は998人。戦後の1946年に発生した「昭和南海地震」では、全壊した家屋は約11,500軒、死者は1,330人。※行方不明者も含めると実際の死者数はもっと多い。

戦時中だったということで当時は情報統制が行われており、被害の実態が国内でも隠蔽されていたそうですが、戦争の裏で凄まじい自然災害が日本で発生していました。この時の南海トラフ地震に関しても前後で巨大地震が発生しており、1943年から1946年にかけて、4年連続で死者1,000人を超える巨大地震が発生。昭和の4大地震(鳥取地震、東南海地震、三河地震、南海地震)と呼ばれていたりもします。

先日の気象庁の記者会見を見ていましたら、昭和に起きた南海トラフ地震ということで「昭和東南海地震」「昭和南海地震」の2つが紹介されていたのですが、当時はそれらに加えて、直下型地震の「鳥取地震」と「三河地震」も前後で発生していたわけです。この2つの直下型地震については、南海トラフ地震との直接的な因果関係が説明できないために割愛されたものと予想しますが、これまでの南海トラフ地震の傾向として、南海トラフ地震の前後には全国各地で地震が増える傾向にあります。

覚えておいたほうが良いこととしては、南海トラフ地震というのは、それだけでは終わらない可能性が高いということです。仮に南海トラフ地震が発生し、それ単体での被害が少なかったとしても、それだけでは終わらない可能性のほうが高いです。

もし発生した場合、しばらくは各地で余震が続くことになるはずで、想像以上に大きな余震も考えられます。

全国的な地震の増加

参考:震度データベース-気象庁

上記の図は、気象庁が公開しているデータベースを利用して作成した図。

1950年1月1日から阪神淡路大震災が発生した1995年1月17日までの約45年間に発生した震度6弱以上の地震発生回数になりますが、全国で「6地震」です。

対するこちらの図は、阪神淡路大震災の翌日(1995年1月18日)から日向灘で地震が発生した2024年8月8日までの約30年間に発生した震度6弱以上の地震発生回数になりますが、全国で「64地震」です。

地震の発生頻度はここ30年で格段に高くなっています。

地震予測は難しく、専門家ですら数字を出すのは困難とされていますが、一説によると「次に起こるであろう南海トラフ地震」から逆算して「40年前くらい」から「南海トラフ地震に先行する形で地震が徐々に増える」という意見があり、阪神淡路大震災がその始まりでは?…と考える学者さんもいらっしゃいます。

参考:南海トラフ地震との関連は-ウェザーニュース

南海トラフ地震のメカニズム

参考:南海トラフ地震について-気象庁

南海トラフ地震の仕組みについては、図を読み解くと、割と分かりやすいものだったりします。

まず地球についてですが、地球はプレートと呼ばれる厚さ100kmほどの岩盤によって覆われています。

卵でよく表現されますが、地球をまん丸い卵だとすると、殻にひびが入った状態で、殻の表面には海という膜が張っています。海中にある殻を海洋プレート、海から一部が顔を出して陸地を形成しているものを大陸プレートと呼んだりします。

地球全体で見ると、全部で14~15枚の大規模プレートにより地球の表面は覆われているとされていますが、そのうちの4つ(ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレート)が交差する地点に日本は位置しています。

プレートの位置関係から見ると、日本はとんでもなくヤバい場所に位置していることが分かります。※日本はどこに住んでいたとしても地震の被害から逃れることは不可能に近いことが想像できる。

では「南海トラフとは何」という話なんですが、ひび割れた卵の殻の殻の境目、「ユーラシアプレート」と「フィリピン海プレート」の2つが接する箇所に作られた凹地。海底に作られた溝状の地形のことを指します。※プレートとプレートが接する箇所(卵の殻のひびが入っている箇所)には溝が出来るイメージ。

特に斜面が急で、水深6,000m以上のものを海溝。それより浅く、幅が広いものをトラフと呼びます。

〇〇海溝といった名で知られる深い海というのは、2つのプレートの接点に生じた溝をイメージすると良いですね。例えば、世界最大の深度であるマリアナ海溝(深度10,000m以上)は、フィリピン海プレートと太平洋プレートの接する箇所に形成された海溝の一つです。

日本周辺の海溝/トラフを図にするとこんな感じ。

日本周辺には大陸プレートと海洋プレートが2つずつ存在します。

  • 大陸プレート:ユーラシアプレート、北米プレート
  • 海洋プレート:フィリピン海プレート、太平洋プレート

基本的に海洋プレートのほうが密度が高いために重く、大陸プレートの下に潜り込むような形になっています。

南海トラフに関しては、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの接点にできた溝(凹地)ですね。

ちなみに、東日本大震災を引き起こした日本海溝は、北米プレートと太平洋プレートの接点に形成された海溝です。

ここで注目してほしいのが日本に存在する海洋プレートで、年に数cmずつ動いていまして、フィリピン海プレートは北方向に年3~5cm、太平洋プレートは北西方向に年8cmほど移動しています。

有名な雑学の一つになりますが、「約8,000万年後にはハワイは日本へとくっつく」と言われています。理由はプレートの移動と関係していまして、太平洋プレート上にあるハワイ島は、プレートの移動に伴い、徐々に日本へと年8cmほどの速度で近づいています。※最新の情報によると、東日本大震災時に発生した地震の影響により、日本へと近づく速度は年12cmほどになっているそうです。

また、静岡県の東部には伊豆半島と呼ばれる半島がありますが、元々は太平洋上に浮かぶ島でしたが、フィリピン海プレートの移動によって島が北上し、本州へとぶつかったことで作られた半島だったりします。

ここで想像してほしいのが、海洋プレートが大陸プレートに潜り込むような形で移動すると「何が起きるのか?」です。

答えをいうと、「引きずりこみ」といった状態になります。大陸プレートが海洋プレートに引っ張られ、下へと折れ曲がるようなイメージです。

ここまで理解できると後は簡単で、大陸プレートをバネと考えた際、引きずりこみが一定量に達すると耐え切れなくなり、今度は元に戻る「跳ね上がり」が発生します。

  • 海洋プレートが移動(大陸プレートの下へと潜り込む)
  • 大陸プレートが徐々に引きずり込まれる
  • 引きずり込みが一定量に達すると跳ね上がりが発生して元に戻る

この「跳ね上がり」が発生した際に生じる災害が地震であり、津波になります。南海トラフという場所では、これが延々と繰り返されていることになります。

次の南海トラフ地震は2035年前後と予想されている

まずは単純計算してみます。

直近3回の南海トラフ地震を見てみると、1605年の慶長地震の後から1944年の昭和東南海地震までの339年間に3回の南海トラフ地震が発生したということで、平均すると「約113年」の周期で南海トラフ地震が直近では発生しています。

そう考えると、次に南海トラフ地震が発生するのはまだまだ先の「2055年頃」になると考えることができるわけですが、政府は「2035年前後に発生する」と発表しています。

なぜか?

これに関しては「時間予測モデル」という物理学的な考えを取り入れた予想が採用されています。

参考:時間予測モデル-地震本部

ざっくりと解説しますね。※興味のある方はリンクを張ってあるので、そちらで勉強してみてください。

海洋プレートが動くことで、大陸プレートが引っ張られることを先ほど紹介しましたが、この時に陸と海との接点を想像してみてください。

この接点では、引きずり込みが起きることで「沈降」と呼ばれる、陸地が徐々に沈んでいく現象が発生します。逆に地震が発生すると元に戻るので「隆起」と呼ばれる、陸地の上昇が起こります。

この「隆起/沈降」が観測できる具体的な場所として、高知県の室戸岬が挙げられます。室戸岬は年間5~7mm程度の割合で沈降しており、地震が発生すると1~2mほどの隆起が起きていることが分かっています。

室戸岬にある室津港では、1707年に発生した宝永地震から、計3回の南海トラフ地震発生時の隆起量が測定されており、その時の隆起量をもとにして次の南海トラフ地震発生時期を予想するのが「時間予測モデル」というものになります。

考え方のイメージとしては、1946年に発生した昭和南海地震の際の隆起量は1.15mで、過去のものと比較するとやや少なく、時間予測モデルから推測するに、1946年から88.2年後の2034年前後に次の南海トラフ地震が起こると予想する、といったものです。

この計算結果により、「2035年前後」と政府は発表しています。

単純に地震発生までの平均時間をとったものよりは精度が高いと見られていますが、一方で、データの少なさだったり、江戸時代当時の隆起量計測方法の精度の低さ等々も指摘されており、時間予測モデルに否定的な学者も結構いるようです。

地震予測の難しさがこういったところからも見て取れますね。

私たちができる防災対策とは?

結局のところ、私たちは何ができるのか?…という話。

少しずつですが防災対策が進むことで、被害想定は更新され、南海トラフ地震が話題になり始めた頃よりは改善されているものの、いざ最悪のタイミング(例えば、火災が起きやすい冬場の人が混雑しやすい時間帯)で発生してしまった場合、経済被害は東日本大震災の10倍以上、国家予算をも軽く超える被害が出ると言われています。※東日本大震災における死者数は19,759人/行方不明者は2,553人、被害総額は約32.8兆円

被害が国家予算を超えるということは、日本における経済活動が丸一年消し飛ぶともいえるわけで、とにかくヤバいわけですが、じゃあ何ができるかということになりますが、答えはシンプルで「防災」を普段から心がけることが本当に大事になってきます。

簡単なことのようで、これが実に難しい。

今回、日向灘で地震が起きたことで、政府は「1週間は地震発生確率が高くなるので注意を」との呼びかけを行っていますが、この1週間の根拠というのも実は曖昧で、「人間が危機感を持続できるのが約1週間だから」という話も耳にしました。

実際に一度災害を経験すれば危機感は高まるのでしょうけれども、大半の日本国民はそういった経験がありません。

一方で、日本国民全員が普段から防災に取り組むようになれば、被害は何分の1にまで軽減できるとも言われています。

直近で最も危険視されている災害は南海トラフ地震かもしれませんが、直下型地震はどこで発生するかも分かりませんし、プレートの話からも分かるように、日本はどこに住んだとしても災害から逃れることのできない災害多発国です。

日向灘での地震に対し、政府が警戒するよう発表したことで、一部の地域では買い占め等々も発生しており、過剰反応といった声も見られますが、何もしないよりはマシかなぁ…というのが個人的な感想です。

個人レベルでできる防災対策すら普及しきっていないのが今の日本の現状です。

もし今回の騒動で何か思うことがあった人は、少しずつ良いと思いますので、防災グッズを揃える等、取り組むようにしてみてはいかがでしょうか。

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